
Uberのライドシェアサービスは世界70か国450都市で展開している配車アプリですが、これまで国内でのサービスになかった一般車へも乗車リクエストができる、ITを活用して人のつながりを作る新たなサービスです。
配車リクエストを出すと、500m圏内でUber運転者として登録している人に通知が入り、ドライバーがそれを承認すると配車成立となります。
乗車前に経路と価格が決められおり、乗客はクレジットカードの登録をしているため未払いになることはありません。
ITの活用によって、これまで引き合わせられることがなかった「移動手段を提供できる人」と「移動手段を求めている人」が短時間で、簡単に出会えるようになったのです。
日本では違法の「白タク」
海外で認められているライドシェアサービスは、日本での「白タク行為」とされ、もし無許可で運営した場合には罰則の対象となってしまうのです。
Uberの特徴である一般人による人を乗車させて運送する事業(一般乗用旅客自動車運送事業)を日本でおこなう場合には、安全のために設けられている基準がいくつかあり、そのためのタクシーと同じレベルでの資格や申請が必要で、その資格や整備環境などが充分でない場合、自家用車では営業することは認められないのです。
「白タク」が認められていない理由
その「白タク」という行為は、何がいけないのか、これまでタクシー業界を安全かつ健全な運営にするために築き上げた仕組みを紐解いていきます。

白ナンバーと緑ナンバーの違い
そもそも、「白タク」と呼ばれるようになった由来というのが、一般乗用旅客自動車運送事業の営業は国土交通省から認可を受けると、緑地に白文字のナンバープレートが発行されるためです。
一般車両であると、白地に黒の文字が載っていることから、営業のための許可を行っていない「無許可」の車、つまり一般車である象徴の「ナンバープレートの色が白」のままで営業行為を行っていることを意味し、「白タク行為」といわれています。
さらに、区別をする場合には、運ぶモノ(人)が誰の物であるかを基準に、白ナンバーと緑ナンバーが区別されています。白ナンバーは自家用車でも使われるものですが、緑ナンバーは、他人から依頼を受けて有償でモノ(人)を運送する場合に使われる自動車のことを指します。
☑他人の需要に応じて
☑有償で
☑自動車を使用し
☑旅客を運送する
☑事業
この5つの項目がすべて揃っている場合は必ず「緑ナンバー」の申請を行わなければならないのです。
そして、この許可を受けるのにはためには下記の条件すべてを揃えることになります。
- 自治体や町内会による合意
- 運転者資格:第二種運転免許又は 大臣認定講習等
- 車両:車検期間は2年 (初回は3年)
- 運行管理責任者の選定
乗客の安全を守り、あらかじめ責任の所在を明確にしておくことによって、事業者側がきちんと責任を取る、という義務を果たすためにつくられた決まりなのです。
「ドライバーが原因で事故を起こしたときに、きちんと乗客の身の安全を保証してくれるのか」「運賃の過剰請求によって、乗客へ被害が及ぶことがないか」
あらゆる場面が想定されるトラブルは、個人になればなるほど管理や対応に差が生まれてしまいます。行政は厳しくルールを設け、公共の交通手段として信頼される事業であり続けるための活動をおこなってきたのです。
タクシー業界はもちろん、自家用車での営業もほぼ同等の厳しいルールがあってこそ、安全な運営となるのです。
反対の声が多いなか、Uberのライドシェアサービスが日本上陸
日本国内のタクシー業界の意に反して「白タク」をサービスにするUberの”ライドシェアサービス”は日本への市場開拓に向けて、2013年に自家用自動車による有償運送のサービスを試験的開始、福岡市内にて限定的にリリースを行いました。
ただ、これが道路運送法にの一部に抵触するということで行政指導が入ったのです。刷新的で便利な「ライドシェアサービス」も日本の法令には逆らうことができなかったのです。日本でのタクシー業界からの反発は強く、営業開始後すぐに国交省も対応を行わざるを得ませんでした。
☑他人の需要に応じて
☑有償で
☑自動車を使用し
☑旅客を運送する
☑事業
にも関わらず、登録や許可等なしに「白ナンバー」の車を使って営業をしていたからです。
ただUberは日本での制度を知らずにサービスをリリースしたわけではありません。
というのも、Uberはこの法律やルールの方法の抜け道を探した末、自家用車での事業を行うにあたってチェック項目のひとつでも当てはまらない事項があれば旅客運送事業の定義とされない点に目を付けたのです。
☑他人の需要に応じて
□有償で
☑自動車を使用し
☑旅客を運送する
☑事業
であるとし、サービスを開始。
乗客の料金はその車を運転しているドライバーへ直接支払う仕組みではなくUberに「データ提供料」支払い、ドライバーには直接支払っておらず、一方ドライバーへはUberから料金が支払われるという方法をとったのです。
ただ、この「抜け道」も国土交通省での見解としては道路運送法の一部に抵触するということで、以後Uberのサービスは一部地域にとどまることになってしまったのです。
他にもあった、Uberの営業が阻止される理由
Uberはタクシーよりも安く、ネットでの簡単な配車、乗客にとっては便利な現代的なITサービス。
あらかじめ乗車料金や経路が確定している状態で、支払いもすべてクレジットカードで決済、Uberのサービスは、あらゆる国で同じルール・サービスが利用できるのです。
一方、日本のタクシーを利用するとなると、会社ごとに支払い方法が異なり、定額料金が決まっているものの到着後にしか支払う額がわからない、タクシーがつかまらないなど、提供されるサービスに対して割高な印象を受けるのです。
そういった問題をUberは解決し、タクシーよりも安く・便利に移動できるサービスは、タクシー業界の人々は危機を感じざるを得ませんでした。
法令によって守られていた業界で「ライドシェアサービス」が解禁された場合には、ドライバー・乗客がそちらに流れ、厳しいルールを敷く昔から変わらない営業方法でのタクシー業界では、乗客はもちろん、もともと不足しているドライバーがそちらに流れ、さらに激減することが目に見えているのです。
企業としては業界への参入障壁が低くなるため、Uberの会社以外にも「ライドシェアサービス」という新たな市場を狙うであろう競合会社の増加による乗客・ドライバーの取り合い、急速なIT化による運営方針の変更などでその変化についていけない既存の企業はたちまち乗客の減少と経営状態の悪化に陥ってしまいます。
これまではタクシー会社を設立することや、ドライバーに対して国交省の認可や、資格を必要とし、タクシー事業者になるには手続きに時間と労力を使っていましたが、一般参入が可能になれば運転免許証さえあれば人を乗車させる運送業を行うことが可能になるのです。
タクシー業界ではこれまでルールがつくられ、比較的守られる側にいたタクシー業界では既存のサービスのみで業界が成り立っていたため、保守的な姿勢を見せているのです。
2013年をピークに減り続けるドライバー不足の業界にとって、大きな危機になっていくことは間違いありません。
時代遅れのサービスが負い目に
海外で大成功したライドシェアサービスも、日本での挑戦は惜しくも散ってしまったわけですが、今後もこの法律がタクシー業界を守ってくれるわけではなさそうです。
2019年3月7日の未来投資会議では、安倍総理大臣より国交省へ具体的な検討を進めるようにとの指示があったのが以下の内容についてです。
第一に、タクシー事業者が委託を受ける、あるいは、実施主体に参画する場合について、 手続きを容易化する法制度の整備を図る。
第二に、自家用車を用いて提供する有償での旅客の運送について、地域住民だけでなく、 外国人観光客4000万人時代も見据え、観光客も対象とする。
第三に、タクシー事業については、ITの活用も含め、相乗りの導入によりまして、利 用者が低廉な料金で移動することを可能とする。
2019年3月7日の未来投資会議 議事録より一部抜粋
ここで議題にあがっている内容を要約すると、
- 観光客を対象とした自家用車有償運送を活発化する
- 自家用車有償運送の手続きを緩和させて利用しやすい制度にする
- 相乗りの導入をすすめる
ということです。タクシー事業の制度とは別に自家用有償運送制度はあったものの、実際には一般家庭の自家用車でのサービスをするには導入までの負担が多く、実際に導入が進んでいなかったのが実情です。
法令によって守られ競合のようなサービスが発生しにくかったタクシー業界は、業務に大きくかかわるようなIT化や革新的なサービスを受け入れずとも仕事に影響は受けなかったものの、既存の利益を守ろうとするあまり、業界の基準は時代の流れから大きく遅れを取っていたのは言うまでもありません。
国は、現在の制度を利用しやすくするための見直しが必要ということ、ドライバーの手続きを安易化するための法整備をすすめることとしたのです。
今回の規制緩和と思われる制度も、あくまでも「タクシー業界を巻き込んで」行われる制度であるため、「運行管理の責任者をタクシー事業者とおくこと」、「配車アプリを使ってタクシーの配車を効率化させる」など、Uberなどのライドシェアサービスを広げるための制度緩和ではないことを強調して発信されています。
タクシー業界が抱える課題と今後
今回のこの発表による現状を推測するとすれば、タクシー業界の伝統・安心・安全なルールに固執するあまり、新しい文化を省いてきた結果、サービスが時代遅れになりすぎていたということです。
これまでタクシー業界を安定化させるために、ライドシェアや自家用有償運送制度ともに厳しい制度を設けることで実質的に営業を禁止とし、他業界からの流入を阻んだ結果、世界や時代に取り残されたサービスだけが残ってしまい、タクシードライバーの高齢化による人手不足、地方での移動手段の供給不足など、不の問題ばかりを抱える結果になってしまったと想定されます。
Uberのようなライドシェアサービスが存在することが「悪」ということではなく、自家用車のユーザーが増え、タクシーの利用機会が減ることにより運送業全体の健全な運営やタクシーの企業、雇用が守られなくなってしまうことがタクシー業界にとって問題だったのです。
この便利なライドシェアサービスが一般車両で普及した場合、アメリカで起きている事象を例とすると、タクシードライバーの解雇問題が深刻化していることと同時に、ライドシェアサービスへの規制がなかったため、ドライバー数の激増に対応しきれていない状況も発生しています。
乗客としての選択肢が増え、便利になることがあったとしても、事故や乗客トラブルの数も比例して多くなることが予想されます。
ただ、時代の流れによって新たなサービスが発生するということは、新たな問題も発生していくものです。この問題を解決することがいかに難しいか、タクシー業界は理解しているからこそ、新制度には慎重になっているとも考えられます。
より便利になり続ける世の中で、新しいものを「悪」とし拒み続けるのか、それとも時代も「味方」につけて消費者の望むサービスを生んでいくのか、大きくなりすぎた組織にとって、仕組みを変えることは安易なことではありません。
しかし、業界のサービスが時代に取り残されている現状を知り、世の中にとって提供価値のあるサービスをつくり上げることは必要です。つい10年ほど前までは現金での支払いが当たり前だった時代と違い、電子決済が当たり前になった今の時代に、現金でしか支払いができないサービスは不便なのです。
支払いだけではなく、配車のためのマッチング、料金の決定方法、位置情報を活用したサービス提供など、進歩したITの活用をタクシー業界でも活用していくべきなのです。
企業側としては、導入への費用や研修など、進化に伴う不都合が生まれることは確かですが、そうして変化し続けることが、生き残る術なのです。
ドライバーの高齢化や人員不足が嘆かれるなか、これからの時代に柔軟な対応ができる会社、できない会社で、今後の明暗を分けることになりそうです。
まとめ
- Uberのライドシェアサービスは日本での違法「白タク行為」とみなされる
- タクシー業界の保守的な姿勢が時代の負い目に
- これからのタクシー業界にはITへの柔軟な対応が必要